「あの人、コロナにかかったんだって」
「どうせ飲み歩いてたんでしょう」
「なんだか、迷惑な話だよね。身近で感染なんて」
「ほんと、気をつけてほしいよね」
「しかし、飲食店なんか、この時期全部閉めちゃえばいいのに」
「ヤクザな商売だよ。社会のことより自分のことだからねえ」
「挙句に店休んで給付金だよ。焼け太りみたいなもんだな」
こんな会話を耳にした。無性に腹が立った。こいつらこそ自分のことしか考えてないと。だいたい、新型コロナウイルスの感染拡大はどこからはじまったかという話だ。
新型コロナウイルスは飲食店や酒場から降って湧いたように現れたのではない。おそらく、客の誰かが店に持ち込んだにちがいない。その客は、まちのどこかで感染したにちがいない。まちへは、この国には、新型コロナウイルスがこの国で生まれたのでなければ、検疫を通り過ぎて入り込んだにちがいない。ということは、検疫が、国の感染防止策がダメだったということじゃないだろうか。それをこの2年間、ずっと飲食店と酒のせいにしてきたのだと思わざるを得ない。
冒頭の会話をするようなヤカラほど、居酒屋で大声で騒ぐタイプの人間だと、そう思えてならない。確かに、この間も居酒屋のカウンターで、その店の感染防止策を評論しあってるような酔客にも遭遇した。そんな奴は飲みにくるなということだ。そんなヤカラも含めて、ドラちゃんは快く迎え入れて優しく接し続けてきたのだ。その心中を客の一人として思うと、いたたまれない気分になる。たこ入道の去年1年間を振り返ると、通常営業できた日は1日もないんじゃないだろうか。休業したり、時短営業したり……。それでも普段と変わりなく、掃除をし、仕込みをし、当たり前のように客を迎える。
第5波で休業に入る前の日などは、大量に仕込んだおばんざいを黙々と捨てていくドラちゃんの姿に胸をかきむしられるような思いがした。そしてこの第6波でも、2月4日から休業せざるを得ない状況になった。2月2日、休業に入るドラちゃんたちを元気付けようと、けっこうな客が集まった。静かに語り、静かに飲み、そして閉店間際、何人かの客は静かにタッパーを出した。おばんざいやおでんを詰めて持って帰るのだ。もったいないもあるけれど、それはきっとドラちゃんや美智子ママの悔しかったり、悲しかったり、腹立たしかったり、やるせなかったりを共有しようという思いに駆られてのことだと思った。そしてまた、元気に店を開けてね、と。
ドラちゃんにはまた、退屈な時間が訪れる。でもドラちゃんはいつでも客を迎えられるように、準備を怠らない。なんならお肌の手入れまで手を抜かないのだ。頑張れ!たこ入道!