月並みだけど、頑張れ!

電話をかけるドラちゃん

日曜日の午後だった。どこへ出かけるでもなく、暇なからだを持て余していた。原稿に向かおうとするが、気分が乗らず窓を伝い落ちる雨粒をぼうっと眺めていた。
「わがみよにふるながめせしまに……、か」
梅雨入りしてから、ずっと雨は降り続いている。コロナといい、雨といい、鬱陶しい毎日が果てしなく続いていた。からだは腐りそうだけど、俺なんかはましなほうだと自分に言い聞かせる。親しい酒場の連中はどうしているだろうか。元気だろうか。頑張っているだろうか。辛いだろうな。いろんなことを思いながら一人ひとり顔を思い浮かべてみる。ダメだ、テンションは下がる一方だ。

休業を告げる張り紙。閉ざされた入り口  撮影/内村育弘

携帯が鳴った。
「ドラですぅ」
電話の向こうのドラちゃんは明らかに笑っていた。
元気にしているかとたずねると、ふっ、と小さなため息をついて言った。
「うん、まあ、クラなってもしゃあないしね。元気でやってるわ」
毎日店に行ってる? ドラちゃんは店が休業になってからも毎日出勤して、いつ営業を再開してもいいように掃除を続けていた。
「いや、1日おきになってる。もう掃除するところないしね」
緊急事態宣言が延長され、休業も5月31日まで延長になった。毎日掃除を続けても、もう手をつけるところがないというのも仕方のないことだ。ピカピカの店内を思い浮かべた。客のいない店内で、ドラちゃんはいつものジャージを着て立ち尽くしていた。

黙々と働くドラちゃん

「1日おきに行って、換気と排水口の掃除してますわ……」
緊急事態宣言が月末に延長されると、休業も再三の延長になるのか?
「わからんけどね。延長になったら、多分ね」
けど、長いなあ……。
「長いね。しゃあないね」
しゃあないね、仕方がない、どうにもならない、頑張らないと……。これは酒場の経営者が頻繁に口にすることだ。慣れっこになったわけではないだろうが、それも冷静に、ゆっくり咀嚼するように口にするのだ。

人気のない先斗町

しんどいやろうけど、頑張ってね。そう言うのが精一杯だった。電話を切った後ドラちゃんはどんな顔をするのだろうと考えてみた。が、後ろ姿しか思い浮かばなかった。
その後ろ姿は、人気のない木屋町、先斗町の風景に重なっていった。
月並みだけど、頑張れ!ドラちゃん。頑張れ!みんな。

人気のない祇園

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