オリンピックよりも

休業終了の日付曜日だけが更新されたお知らせ

6月1日、たこ入道の玄関脇に張り出された休業のお知らせは、その終了期日の部分だけが上書きされていた。
北海道、東京、愛知、京都、大阪、兵庫、岡山、広島、福岡の9都府県に発出されていた緊急事態宣言は、5月31日が解除予定だったが6月20日まで延長された。報道によると感染拡大の状況を見れば、延長はやむを得ないというのが一般的な受け止めらしい。しかし……。
4月12日からはまん延防止等重点措置による時短要請を受けての休業だった。それが4月25日に緊急事態宣言になり、当初は5月17日に解除予定だった。それが31日まで延長され、さらに6月20日まで再延長されたのだ。たこ入道の休業は4月12日以降2カ月以上に及ぶことになった。

ガラス越しに見える起き看板がさみしい

「いちから書き直す気力もないわなぁ……」
店先で足を止めた2人連れが、終了予定期日だけをその上から更新した張り紙を見ながら話していた。
「なんとなく、店主たちの疲弊を感じさせますね……」
「仕方ないな。しかし、なんで飲食店ばっかり」
国は「これまで以上に強い集中的な対策が必要」としているが、百貨店、アミューズメント施設、演劇、映画、ライブ、スポーツイベントなどは規制や制限が緩和された。何がどうあってもオリンピックを開催するぞという姿勢の表れだと受け取る人も多い。「強い集中的な対策」が講じられているのは飲食業、特に酒類の提供を伴う飲食業が中心だ。
「なんか、酒場が諸悪の根源やと言うてるみたいやね」
「言うてるみたいと違って、間違いなくそう言うてるな」
「それで協力金とか給付金とかわずかな補償で時短せえ、休め言われてもな」
「やってられんよね……」

人も車も見えない

木屋町ではこの日、至る所で同じような貼り紙が目についた。
「俺の馴染みの店も、5月31日までやったら何とかって頑張ってたけど、再延長が決まってとうとう休むことにしたらしい」
普段の木屋町なら酒や食材、氷を配達する車がひっきりなしに行き来する時間だが、車は少ない。もちろん人も少ない。
「オリンピックなんてどうでもいいな。この、木屋町の状況をなんとかしないと」
「ですよねえ。オリンピックなんて、いっときのことですもんね。この街の状況、飲食業の苦境、この問題の方が大切やと思うけどね」
「木屋町の消えた京都なんか……」
空は晴れていた。この日京都は31.2℃を記録した。

赤い風船は青い空を目指せるだろうか。写真はすべて内村育弘撮影

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