コロナでもオリンピックでも、京都の夏は暑いねん。この暑さを煽るのが八坂さんの祇園会。去年は神事の執行だけで、山も鉾も建たなかったけど、今年は巡行こそないけれど16日の先の祭りと23日の後の祭りの両宵山に山鉾が建つというので、これはいい機会だと見に出かけた。はっきり言って、オリンピックよりも山鉾が建ったことの方が、僕はうれしい。祭りを支えてきた人たちの頑張りと努力が、完全ではないが報われるのだ。
宵山を見た後、12日に営業再開したたこ入道へ向かう。久しぶりのドラちゃんが笑顔で迎えたくれた。木屋町にもわずかではあるけれど活気が戻ってきたようだ。馴染みの酔客と言葉を交わすドラちゃんと美智子ママの笑顔がいい。あんなに無口だったママが饒舌になっている。はっきり言って、オリンピックよりたこ入道や飲食店の営業再開の方が、僕はうれしい。度重なる緊急事態宣言、まん延防止等重点措置に伴う休業要請、営業時短要請に耐え、頑張ってきた人たちの暮らしが、完全ではないが復活したのだ。
これは祝わなければならない。ドラちゃんとは、僕が京都に帰ると必ず飲む。どこで飲むかは別だが、たこ入道の定休日に必ず飲むのだ。そこには必ずドラちゃんの奥さんみゆきちゃんも一緒だ。他にも何人か限られた友人が集まり、ヘロヘロになるまで飲むのだ。ん?みんなが? 違います。みゆきちゃんが、だ。
みゆきちゃんは反則だ。はじめて僕の写真展に夫婦で来てくれた時、ピンクハウスみたいなひらひら乙女チックな服を着て、超ブリな雰囲気を醸し出していたのに、これがお酒を飲みはじめると爆裂してしまうのである。これは反則だ。チョークプレーだ。僕らは何も被害を被らないが、その爆裂はすべてドラちゃんに向かう。この間も2人はスヌーピーのペアルックで現れ、ラブラブバブルに包まれていたが、バブル崩壊までにそんなに時間はかからなかった。まるでオリンピックだ。
みゆきちゃんは厳しい、らしい。ドラちゃんの小遣いは、先だって3万円から2万4千円に値下げされた、らしい。それでもみゆきちゃんの気に入らないことがあると1回につき1千円の罰金を取られる、らしい。それでもドラちゃんはニコニコ言うことを聞いている、らしい。あの、たこ入道のカウンターの中で寡黙に働いているドラちゃんと同じ人だとは思えない。
「厳しいな」と僕が言う。
「うん」ドラちゃんは小さく答える。
「それでも大好きやもんなあ」みゆきちゃんがドラちゃんに抱きつく。
それはやがて格闘に発展するのだ。まるで、伝説の大仁田厚と船木誠勝の電流爆破デスマッチだ。
翌日ドラちゃんに聞いた。
「昨日の写真で高瀬川BLUES書いて公開していい?」
「どうぞ」
「捨て身やなあ。と言うかブルースやなあ」
「ふふふ」
でもそれくらいの根性がないと、こんなに苦労が多い商売はやってられないのかもなと思った。
〈4年間頑張ってきたアスリート達が感謝の気持ちを込めて感動を振りまく〉がオリンピックだそうだ。
僕はこの際アスリート達よりも、命を削るようにして耐え忍び頑張ってきた飲食業界の人たちに心からのエールを送りたい。