ドラちゃんの名前を知ってるかい?

山本“ドラちゃん”秀則
ドラちゃんのニコニコ

ドラ、ドラさん、ドラちゃん……。
客は彼のことを様々に呼ぶ。隣に座っている若い酔客が「おい、ドラ!」と彼を呼ぶのは、横で聴いていても不愉快だ。
どれだけの常連かは知らないが、せめてドラちゃんくらいにしておけと思う。
しかし、ドラちゃんはニコニコ対応する。ほんとうはどう思っているのかはわからない。
極端な感情表現はない。だから酔客は余計に調子に乗るのだ。

そんな酔客をつかまえてたずねてみた。
「あなたはドラちゃんの名前を知っているか?」と。
「……」答えはなかった。「名前なんか知らんでも、ドラはドラや。なあドラ」
声を大きくしてそう言い、ドラちゃんの様子をうかがう。
ドラちゃんは相変わらずニコニコしている。
すると反対側の隣に座っていたベテランの酔客が若い客に言った。
「なんでドラさんはアメフトのジャージを着続けてるか知ってるか?」
若い酔客がふてくされて言った。
「そんなん知らんでも酒は飲める。なあドラ」
ドラちゃんは相変わらずニコニコしている。

別の酔客が美智子ママにたずねる。
「お二人はご夫婦?」と。
「なんでやねんな」とママ。
「じゃあ親子?」
「アホかいな」とママ。
ドラちゃんは相変わらずニコニコしている。

謎、は多い。
この店にも、二人にも、謎が多いのだ。
そんなこと知らなくても酒は飲める。でもこの店では知りたいことが山ほどある。
それを知るには、長く通い、そこにいることだ。
そうすることで、この店が自分に馴染み、自分も馴染みになっていくのだ。
ママの無愛想も、ドラちゃんのニコニコも、酔客を育てうまく操るための隠し味になっている。
さて今夜も出かけるとしようか。